LS塾第3期第3回において 亀嶋庸一氏の講義が行われました。


【開催情報等】

1.日時:2019年8月28日(水)18:30~

2.講義:「ライフスタイルとしての大学」

3.講師:亀嶋庸一氏(成蹊学園学園長、成蹊学園名誉教授)


4.講義の内容


 

第一部 大学という教育の場を取り巻くライフスタイル

まず、大学教授として教育の場を取り巻くライフスタイルから整理してみる。
イギリスの大学に通っている際、イギリスでは祝日であっても講義が休みではなく、日本と世界との一般的なスケジュールの差異に気付くことがあった。こういった差異を調整するかのように現代の日本においては祝日に授業をすることが多くなってきている。
変化の流れは大学の教授たちを取り巻く環境にも見られ、長期間の研究が認められ「恵まれている」といわれていた日本の研究環境も、短いスパンでの研究成果が求められるようなアメリカ等の評価基準に移行してきている。
また大学にはIT化の波も顕著に影響が出ている。昔は論文を書く際には手書きであり、図書館に足を運んで調査するのが常であったが現代においては自室で論文検索を行い、ダウンロードができる。これらの変化によりピンポイントでの作業ができることになった。
しかし、いわゆる効率化というものが評価される一方でいろいろなものとの出会いの場が失われているといった面もあると考えられる。


第二部 現代社会論からみるライフスタイル

第二次大戦後の資本主義においては商品の魅力を宣伝することで需要を高め、消費が創られていた。この構造は今日まで変わることなくより精錬されてきており、その結果、商品のPRのレベルが高まった。これによりいわば「消費の神話」化の極点に行き着いた感がある。
しかし、消費は人々の価値観により形成される一面があることを忘れてはならない。
ダンヒルとZippoのライターのいずれを使うのか。乗る車はベンツか、フィアットか、中古外国車なのか。自分のライフスタイルを象徴するモノを持つことが重要視される。(参考 1970年J.ボードリアールの「消費社会の神話と構造」)。
また、一方で消費社会のあるべき姿を考えるために参考にしたいものとしてアーレントの消費社会への批判的視点がある。

アーレントは人間を構成する3つのアクティビティを
1「労働」   :食料などの生命維持のための生産 労働と消費のサイクル
2「仕事」   :人間の生活が生み出した人工的世界を構成する耐久性を有したモノの製作
3「アクション」:モノ主体ではなく人々の間にて使用され言論や行為発言等
と定義した場合、労働による消費財の生産量が過剰になった場合、仕事が生み出す耐久財が消費財化していくこととなり、仕事が労働化していくとしている。このような消費社会は仕事やアクションを高めることにつながることはない。
これらのことを理解しているとすれば、例えば、日本の人口減少も重なり定員割れが増加する大学において、施設設備への投資によるイメージアップにより定員を確保しようとすることは果たして正しい対応策なのであろうか。

日本の幸福度は低い。それは協調性を強いられ人生選択自由度・寛容性が低いということに起因する。一方で欧米では、人生選択の自由が広く、自身の評価が得られるところを目指す。
与えられ、強制されるのではなく、行動し、自己決定し、自分を磨くことが人間としての幸福度を高めると認められる時代が到来していることを私達は認識しなければならない。

 


5.受講生からの感想


暗黙的な問掛けの多い講義でした。考えるにライフスタイルとは、近代において環境が整ったことにより許された消費者による本来の消費への動向であるのだろうと捉えることができるのだと思います。だとすれば労働の次にある豊かにするための仕事から創造された成果物は、人間の幸福を根源として創造されることとなり、ライフスタイルとはモノから強制されない自由な幸福を求めることといえると思いました。


6.塾長からの感想


社会に出て久しぶりに大学の講義を受けた気持ちになりました。日本の未来を担う学生のいまの現状を知り、塾生にとっても新鮮な学びの体験になったことと思います。
また、「豊かなライフスタイル」の定義を社会的な推移とともにお話していただき、私達の気づかない新たな視点から社会を顧みる貴重な機会となりました。


 

2019年08月28日